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広島地方裁判所 昭和42年(行ウ)17号 判決 1967年12月27日

原告

長門電気株式会社

右代表者

伊藤卓男

被告

広島国税局長

小林政雄

右指定代理人

小川英長

主文

原告の各訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は、「被告が原告に対し、昭和四〇年五月二七日付なした訴外長門株式会社の滞納税金を徴収するためになした不当利得返還請求権を差押えた処分を取消す。右処分に関する原告の異議申立を棄却した被告の昭和四二年四月二〇日付決定を取消す。原告の前記訴外会社に対する前記債務の不存在を確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求原因として次のとおりのべた。

一、被告は原告に対し、昭和四〇年五月二七日付で、訴外長門電機株式会社に対する滞納処分として、右訴外会社が原告に対し有する、原告が昭和三七年一一月七日右訴外会社から法律上の原因なくして受取つた冷房機三台の不当利得返還請求権を差押えるとの債権差押通知をなした。しかし、原告は右物件を受領した事実はないから右滞納処分は違法である。

二、原告は被告に対し昭和四〇年六月二六日右処分に対する異議の申立をなし、被告は昭和四二年四月二〇日付で原告の申立を棄却する旨決定し、原告は同月二八日右通知書を受領した。

三、よつて、右処分の取消及び被告主張の原告の債務不存在確認を求める。

被告は、主文同旨の判決を求め、事実に対する答弁として次のとおりのべた。

原告主張の滞納処分、異議申立棄却の処分が原告主張のとおりなされたことは認める。訴外長門電機株式会社は原告に対し債権差押通知書記載のとおりの不当利得返還請求権を有するものである。そして滞納処分たる債権差押において第三債務者は滞納処分の取消を求める利益を有しないから、原告の各取消請求の訴は不適法である。

理由

原告主張の滞納処分、異議申立棄却決定がなされたことは当事者間に争いがない。国税徴収法に基づく債権差押処分における第三債務者は、被差押債権が不存在であつたとしても、債権取立の段階において右債権の存在を否認しうるのであり、債権差押処分によつて権利を害されるものでないから、原告は行政事件訴訟法第九条の処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者にあたらないというべきであり、したがつて、原告の差押処分取消の訴は不適法である。そして、異議申立棄却決定に対し取消の訴を認めた法律の定めもなく、これを認むべき必要も認められないから、右棄却決定取消の訴も不適法である。

債務不存在確認の訴の適否につき考えるのに、本件債権差押処分により債権取立権を取得するのは、国税の帰属する国であると解するのが相当である。国税徴収法第六七条第一項に「徴収職員は、差し押えた債権の取立をすることができる。」との規定があるけれども、右は徴収職員に対し裁判外における取立権能を付与したものであり、裁判上の取立権能を付与したものでないというべきである。したがつて、徴収職員たる国税局長は右債権の存否の確認、取立の訴につき当事者適格を有しないから、原告の右確認の訴は被告を誤つたもので不適法である。そして右誤りを救済する余地はない。

よつて、原告の各訴を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(長谷川茂治 雑賀飛竜 淵上 勤)

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